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mixiでもいろいろとのっけてますが、近いうちにこっちに移行する予定。
BSRは明智と毛利に愛注いでます。
MSUは三成。
何ってきっとイケメンのツンデレと変わった人が好きってだけ。
FFはセフィロスとルーファウス
RPGは主人公よりもヒールを好きになる傾向が強い。
イケメン頭脳派にどっぷり浸かる。抜けだせない。
乙女ゲーとやら
アリスシリーズ ブラッド、ナイトメア、ユリウス、グレイ。
クリムゾンシリーズ ジャスティン、ランビュール
薄桜鬼 風間、土方、斎藤
華ヤカ 脱学生組
大人の男ってやつさ、駆け引きのうまい人なら尚更いいんでねえの。
何かありましたら
come∂on.disaster21c★biscuit.ocn.ne.jp
(∂の部分にハイフン、星の部分に@当てはめてやってください)まで。
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兄弟とはるの夏休み。
「やはり別荘に行くべきではなかったのか?」
「で、でも今年は帰るって言ってしまいましたし、たえちゃんも一緒に
来てくれるって」
冷たい視線をちらりと送った正に気付いてたえは慌てて
「えええええ、正様がいるなんて知っていたら私は遠慮しましたわ!」
ぶんぶんと手と首を振った。
例えばこんな夏休み <正ver.>
折角避暑地で過ごせると思っていた正は不機嫌な顔を隠しもしないで
食堂についていた。
こんなはずではなかった。婚約までしたのだから、はるは自分と共に
同じく兄弟と別荘へ行くと思っていたのだ。
ところがどうだ。
ふたを開けてみれば、去年の薮入りと同じ様に実家に戻って過ごすと
いう。全く変わり映えのしない休暇。二人になれるどころか要らぬこぶ
がいくつも付いてくるではないか!
いや、家族になるのだから仕方がない。だが、屋敷屋別荘のように隔
てられた部屋もないのだ、寛げという方が無理である。そうだ、前と同
じ様に旅館を貸し切ってしまえばどうであろう。はるにも一室(いや、
俺と同じ部屋でもいいが)与えればいいだろうか。
使用人を飛び越えて婚約までこぎつけた恋人の事を考えて、正は深く
溜息を吐いた。
自分と一回り以上違うためか、彼女は無自覚な部分がまだまだ不安で
ある。しかも無駄に顔と家柄だけはいい男があれだけ揃っていて、尚且つ
気さくに話しかけられる立場にあれば、いくら婚約したとあっても心配の
タネが尽きることなど不可能。
「特に大佐だ……」
ぽつりとこぼした、一番危険な男。軍人気質と強引さが相まって何を
起こしてもおかしくない、と長男は考えていた。しかし、その後茂はあの
軽さではるを引っ掛けていき、進は実直さで気をひいた後に内面の黒さ
で縛るだろう。そして雅は……言うまでもない、年下の我儘が通用する
だろう。
一つ思い浮かぶと芋づる式に懸念要素が浮かんで正は頭を抱えた。
「正様?どうされました?」
食堂にいるのを忘れていた。兄弟たちが訳知り顔でニヤついている。
周りは敵ばかりだ。正はもう一つ息を吐いて食事を始めるようにと促した。
当主になるまでの道程は長かった。はるを手に入れるのにも苦心した。
敵はまだまだ多いが、わからせてやるいい機会だ。当主としての最初の
権力行使がこれでは格好がつかないが、この休みを使って思い知らせてやろう。
長男の夏休みは気苦労と逆襲のためにあります(胃薬必須)
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「ね、眠い……」
寝汚いと言われたこともある。夢もしっかり見てしまう。
七夕に見た夢ほど衝撃的なこともなかったけれど、あれは……。
実現可能になった今では、というか実際経験のある今では
全然笑い話にならない。
例えばこんな夏休み <勇ver.>
勇はことに、同じ部屋での寝起きをするようにとはるに言ったという。勇の部屋は別邸ができるまではると兼用するようである。
勇は大層気分よろしく過ごしているが、はるは緊張の連続で
本当はそれどころではない。勇が上機嫌なので怒られることはないが、事あるごとに触れてくる手の優しさであったり、そっと告げてくる言葉の温かさが慣れないはるを混乱させてしまうのである。
だが、そんなはるが唯一勇様の部屋に移ってよかったこと。それは。
「そろそろ起きろ」
「も、もうちょっと……。」
「お前は壱拾分前もそう言った。そろそろたえが乗り込んでくるだろう、起きろ」
ふかふかのベッドとやらで時間を前より気にすることなく眠る事ができるようになったことである。最近ははるが勇を起こすのではなく、勇がはるを起こしているらしい。一時たえがはるを咎めたことがあったけれど、勇自身が起こすのを楽しんでいると発言してそれ以上追及されなくなった。
「おい、はる」
「たえちゃん、ちょっと待って……」
「……俺はたえではないのだがな」
布団をめくってしまおうとした勇の手をぺちぺち叩いて(これが無意識だというから怖いものだ)拒絶をする。寝返りを打ち、顔をそむける様を見て、勇は絶句した。
「……(くそ、これで起こせるわけ無かろうが!)」
同じベッドの上にいながら起床さえも促せない自分に勇は項垂れた。
「くそ、こういう時はどうするべきかトキに尋ねておけばよかったな」
トキだってこんな質問をされれば困るに決まっていることを、勇はわかっていない。
もう一度ちらりとはるの寝顔を見て、勇は覚悟を決めた。
「童話の教訓とは、俺も焼きが回ったか……」
(勇様の休暇は理性の忍耐が過分に試されます)
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「ここが分かんないの……」
帳面をもって走ってきた妹の頭をポンポンと撫でてから手にあるそれに目を落とす。これははる自身が教えてこんがらがるよりも、きっと茂の方が適任であろう、そう考えて家に戻るようにと促すことにした。
例えばこんな夏休み <茂ver.>
茂は寛いだ格好でソファにだらりと横になっていた。貯金があるから家を建てる。そう言ったときに一体どんな家なのだろう、ここらの地域の中ではまあまあ大きい家になるだろうかと思っていたら、屋敷になった。勿論、宮ノ杜程のお屋敷などと比べれば差はあるに決まっているが、それでもやはりお金持ちであることを痛感させられた。外回りだけではない。家財道具もこだわったものであるらしかった。マホガニーとかいう書斎の机を見たときにはるの口から溜息が出たほどである。それは拭き甲斐がある、というあくまで何故か使用人意識のものであったが。
茂が今寝そべっているのも座り心地を追求したものであり、実は茂の部屋にあったものと同じ会社のものである。
「全く、贅沢が身に着いちゃって……」
反論の余地はない。
朝に畑を耕してぐったりとしている茂は人気者である。持ち前の軽さからはるの母と妹たちには既にしっかり気に入られているし、家出の際に滞在したこともあってはるよりもしっかり家族を築いているような気にさせるのだから。
そういったわけで先程帳面をもって戻ってきたたえのみならずふみもやってきて、腕を目に当てて休んでいる茂に向かって突進し、起こした。何やらぐえっ、ともぐふっ、ともつかない声をあげてしぶしぶ身を起こし、帳面を側にあった机に広げて足の間にたえを座らせて説明を始めた。ふみはというとソファの上に立ちあがって茂に後ろから抱きついている。
「あれって、よくある良い家族ってやつじゃない?」
此方ははるの同僚であったたえがポツリと漏らした一言である。はるはその隣で洗い物をしながら頷いた。居間が見える台所を作ると言って本当に家に組み込んだ茂は、時々たえ(子供の方)が問題をといている合間に此方を見ている。
「ほんとにね。なんかもう、お兄さんっていうよりお父さんなんだよね」
「あんた、それ笑えないわよ……。自分の子供の事考えた方がいいんじゃない?」
「ええっ!?」
はるはうろたえて思わず大きな声を出した。考えたことがないとは言わないけれど、他人に言われることが一番恥ずかしいような気がする。一気に顔が赤くなった。見れば向こうの3人もどうしたんだろう、と同じ様な不思議そうな顔をして此方を見ている。いや、なんでもないの!ととっさに言ったものの、そんなものは何の説得力もなく、たえはにやにやと笑っていた。
茂はなんとなく察していた。なので眠る前にさりげなくたえちゃんに何言われたの、と質問してみた。はるは昼間にたえと話したことを言えるほど恥ずかしいことはなかったので、妹と戯れる茂がほほえましいと言っていたのだと濁した。だが。
「ふうん。家族か……やっぱり、俺たちにもそろそろ子供居てもいいと思うんだよね。はるに似た女の子がいい。俺すっごく可愛がると思う。あの子たちと並んだらきっと可愛いよねー。服もいろいろ着せたい」
子供欲しいなーと黒さを含んだ顔で迫ってくる茂に若干はるは慄いた。
「え、いや、でも茂さんに似た男の子だったら美人さんになると思います」
恥ずかしいから話の内容を変えるべきだと発言したはずだったのに、春の言葉は向きを変えるどころか本筋真っ直ぐであった。
「はるは男の子がいいのかー。でも俺男だとはるを争奪して小競り合いとかおこしそうなんだよ」
いやいやいや!起こるかも知れないよ、じゃなくて茂さんが起こすのかよと突っ込める余裕ははるにはなかった。
(茂の休みははるの危機と共にある。だが反省はしない)
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ここから先はちょっと短いかも……
はるは包丁をもって台所にいた。隣には文子が同じく包丁をもってくるくると大根の皮をむいている。ふむ、では自分も、とはるも丸く切られた大根を手にとって同じように剥く。ちゃんと面取りも忘れない。
例えばこんな夏休み <進ver.>
「でも、私のやり方でいいのかしらね?お屋敷ではもっとしっかりした食材もあるし、一流の料理人の方が料理してくれるのでしょう?」
それはそうですけど……はるは少しだけ口ごもった。あの屋敷にいる人間と言えば、確かにはるには優しいが、仕事には厳しい。それに、いくら失敗するつもりはないとはいえ、いい食材を実験材料に出来るほどまだまだはるに高級指向等ない。
「私が喜んでほしいのは進さんですからね。他の方にも確かにおいしいと思ってもらえるのは素敵ですけど、やっぱり私の大事な人なので」
文子が隣で笑う。好きな人にふるまう料理は大切よねえ、と。
よかったわね、進。そう言って文子が後ろを振り返ると、柱に凭れて腕を組みながら此方を向いて笑っている進がいた。
「思わず可愛らしい台詞が聞けてうれしいですよ」
そうよねー、冥利に尽きるわね!と親子は和気藹々と話しているが、はるは後ろを振り返る事が出来ない。しまった、なんでこんな時に帰ってくるんだ!背中に変な汗がじっとりと滲んでくるのを感じて手早く皮を剥く。皮むきに集中するんだ、そう、私は皮むき器、皮むき器……そう念じてせっせと皮むきに勤しむ。
「ほら見て!あんなに一生懸命……今日のご飯は絶対においしいこと間違いなしよね?もし万が一があっても進は残すつもりもないだろうし」
「それはまあ。言うまでもないと思いますが。屋敷に戻ったらしばらく食べられませんからね。ここでしっかり覚えておかないと」
聞きたくなくても仲良し親子のおしゃべりはここまでしっかりと聞こえてくる。段々腕が重くなっていくようだが、はるはその重圧に内心泣きたくなった。
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博は研究室?にこもってせっせと作業をしていた。
「こーんな感じかなー?」
すると、外から扉をノックする音がする。聞こえた声はたえであり、そろそろ夕餉の時間だという。もう行くよーと間延びした返事をしてそっと目頭を押さえる。手元のランプを消して、博は席を立った。
例えばこんな夏休み <博ver.>
休みに入ってから、博はのんびり過ごすというよりは、何かに没頭しているようであった。洋行から戻ってきていろいろと話を聞こうと思っていた兄弟たちはどうしたのかと首を傾げていた。
「おいはる、貴様博と何か話をしたのか?全然進展しているように見えぬではないか!」
「そうだぞはる、あれから5年だ。いくら冷めたかもしれんとはいえ話をせんとは。我々にも話をしないで部屋にこもるとは」
はるはぎょっとした。兄弟たちの勘違いは凄まじいものがある。まず一つ目に、話をしていないわけではない。確かにお部屋にこもっておられる時は邪魔をしないようにと他の事をして過ごしている。もう一つ。
「ちょ、ちょっとよろしいですか」
一斉にこちらを見た兄弟達に一瞬たじろいだが、はるは思い切って一歩踏み出した。
「確かにお話ししている時間は少ないですけど、冷めてなんかいません!5年ずっと大事に思ってましたよ」
若干目を細めた長男、二男。へええ、と感心した表情の三男、四男。何言ってんの、馬鹿!と普通に罵倒する六男。
そして。
いつもならばーん!と扉を開けて千富やたえに小言を言われている五男博は、珍しくそっと食堂に入ってきた。心なしか顔は赤いし、あさっての方向を見てはちらちらとはるに視線をよこす。存外嬉しかったのだろう。
「おっ、俺もちゃんと好きだからねー!」
公開告白と相成り、兄弟と居合わせた使用人数名の生温い視線と呆れがそこに微妙な雰囲気をもたらした。やってしまった、と思うはると絵、なんでみんなそんなに残念そうな顔をしているんだろうという内心いっぱいいっぱいの博。
逃げるように食堂を出たはるは、博によって捕獲されて研究室まで戻ってきた。一体あの視線は何時まで投げられるだろうかと思えばぞっとしない。そう考えていたはるは手をぎゅっと握られてはっとして博の方を見た。
「大丈夫だって、みんな俺がはる吉のこと大好きで、冷めるわけないの気付いたと思うし、何よりはる吉を俺から何時離せるか考えてたの破れたり、って感じだったみたいだし」
それ、どんな妄想ですかとは言えなかった。何かしら言われたのだろう、そうだ、たとえば雅様辺りにけしかけられたんだろう。そう考えたら余計に信憑性が高まってきた。もうこれきっと事実でしょう。
「そんなはる吉に、俺からプレゼント!」
プレゼントは、贈り物のことだったな、と思い出してはるはおもむろに手首を握り、これくらいか、と言っている博を見つめた。腕時計だ。いつか見たような腕時計である。やはり今回もなにか仕掛けがあるのだろう。今度は何だ、と思って目盛りを見れば、100とある。
「今日から100日、俺はるに好きだって言い続けるから。でね、0になったら、俺と結婚して!」
カウントダウンは、もう始まっている。
(博はやっぱり気の休まらない夏休み。花嫁修業開始で)
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(列車事情捏造。すみません)
いつも自分を起こしに来るはずのはるの声ではない。なんでだよ。
雅の朝は低血圧ゆえの機嫌の悪さも相まって最悪の状況で始まった。
「ねえ、あいつは?」
「はるですか?はるなら今日は千代子様のところへ朝から手伝いに行きましたよ」
はると一番仲のいいたえが言うのだから間違いない。
「僕を差し置いて、あんなのと休みを過ごすなんて!最悪、最低、何なんだあいつ!」
雅の休みはこれ以上下降はありえないほどの気分の悪さとお留守番という任務で幕を開けた。
例えばこんな夏休み <雅ver.>
一方そのころ。
はるは列車の中で朝ご飯を迎えていた。千富さんが握ってくれていたというおにぎりである。二つほどの真っ白な握り飯と、添えられたたくあんに思わず笑みがこぼれる。しかしたくあんは苦手……。竹の皮が分かれていたので、手を汚すことなく食べることができるのはありがたかった。
真っ白な握り飯は、かじると中に昆布の佃煮が入っていた。はるは嬉しくなってどんどん食べる。もう一つは鮭の解し身だった。贅沢な朝ご飯である。いつもと違う場所、違う時間、そして一人。側にいられないのはなんとなく寂しかったが、千富さんの一言でホッとしてしまったのだ。
「雅様にも、同じ握り飯をお出ししようと思います」
今日は正も勇も、早くに屋敷を出ている。茂はやす田に泊まってくるといい、進は夜勤で戻っていない。博は洋行しているのだから、屋敷で朝食をとるのは玄一郎と雅である。しかし、最近は朝食をともにとる事もなくなってアトリエにいるために実質、雅一人。お互いに一人で、雅は我儘なところが大きいのでご飯は要らないなどと言うかもしれない。けれど、その一言で食べるだろうと踏んでいたのである。
案の定、あいつも食べてるなら、食べてやらないこともないよ、と言って部屋に戻って食べると言った。写真でもみながらまた最低とか言いながら食べているのかもしれない。帰ってきて嫌味を言われるのは私でないから放っておこう、千富はさっさと作業を再開した。
おいしいご飯を食べ、持ってきた水筒からお茶を飲んだ後、うとうとしながらではあったが、時折聞こえる駅員の声を聞き、はるは京都に降りることができた。千代子が迎えに来ると言ったので店までの事は心配はしていないが、心細いことに変わりはない。いつも僕に付いてこればいいんだから余所見とかするな!こっちって言っているだろ!と怒鳴られているはるからすれば、初めてのおつかいのような気がするのである。千代子は通りに出てきて不安げな子犬のような顔で困っているはるを見つけて苦笑した。早く行ってやらなければ。
「おはようさん、えらい遠いとこまで来てもろて、おおきになぁ」
「いえ、私も一度来てみたかったんです」
雅と、が抜けてるやろ。とは千代子は言わない。でもわかっている。
「さて、今日の内に帰らな、雅が飛んでけえへんとも限らんやろ?早いとこ、布地決めて、準備しよか」
「はい!」
今日は新しく着物を作るために来ているのである。はるのだけではなく、雅のものを。沢山の布地を前に唸りながらも汽車を気にして焦るはるをほほえましく見つめ、これはどうや?と、とっておきの布地を差し出す千代子であった。
「何なの、僕に断りもなしに!」
うろたえるはるに、やたら怒る雅。もういい、と後ろを向いた瞬間に、広げた浴衣ごとはるが抱きつくまで、その機嫌は直らなかった。
(雅の休みは京都で過ごした方が吉かもしれない)
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(どうだろう、本の内容捏造……?)
まだ、読んでいなかった物語がある。だから今日は、それを読んでしまおうかなとはるは思った。だがはるは、目の前にあるその本をめくるのを躊躇った。
主人公は名のある屋敷の使用人。ここまではいい。帝都を救うようなことは何もしていないし、何より屍って。はるは困惑していた。守と自分の恋物語を織り交ぜて、ちょっとした喜劇のようになっていたらいいな、と軽く考えていた。現実は甘くなかった。
「……(これ、私を意識して書いているうちにって言ってたな)」
例えばこんな夏休み <隠れ兄弟ver.>
そうか、はるはポンと膝を叩いた。つまり、最初のうちははるに似ているはずだ。そう思って、最初の方だけなら読んでもいいかもしれないとはるはその本を手に取った。
だが、守が何時か言っていた。男の家に転がり込み、そこで生活をする使用人など聞いたことがないと。もし守の文才によってそこが赤裸々に描かれ、かつ面白おかしくされていたらいたたまれないのははる自身である。 いや、守は長く共に生活しても手を出さぬほど禁欲的な人間であるから、そんなことはないだろう。はるの笑みが戻ったところではるはたえから来た手紙を思い出した。
「そうだ、たえちゃんからの手紙と同じだよ」
たえはちょこちょこ手紙を寄こしてくれた。文末はですます、体を大事にしろなどと、優しい。だが、様子見に田舎を訪れてはると目があった瞬間から烈火のごとく怒り始める。
「ってことは守さんは……」
普段の反動でもしや。そう考えた己をはるは激しく呪った。怖すぎた。
もう、これはしょうがない。書いた本人に、章ごとに説明でもしてもらおう。はるはそう決めて、元あった場所に本を戻した。
守は百面相しながら与えた本に向かって唸るはるを観察した。あの後、はるを意識した主人公が闇を駆け抜けるあの本をはるが読んだ形跡はなかった。読み辛いのだろうか。仕方ないからはるのためにだけ恋愛ものを書くのもいいかもしれないと思った。
はるがいかにも闇を駆け抜けられるほど器用に見えなかったというのもある。はるはぽややんとしてどこかずれている、そう思わせる何かがある。だから屍の上に立つということもないだろう、あれは済まなかったと反省している。
だが、あの本は面白いはずだ。一向に手に取らないはるに、読み聞かせでもしてやろうか、背後から近づいて一言言ってやろうとすると、
「ってことは守さんは……」
名を呼ばれた。そして続きは心の中でどうやら呟いている。その続きを口に出すべきだろうに!気になって仕方がないが、顔面蒼白のはるはまた何か勝手によからぬことを考えて一人戦慄しているのだろう。
ささっと本を棚に戻し、私は何もしてなかった、見てなかったとでもいうようなはるに、今日はしっかり話を聞いてやろうと決めた。まずは先に一言言わせてもらおう。
「はる、貴様また俺の本棚をいじったな?今のは掃除ではなかろう。仕置だ」
(守の夏休みはとりあえず執筆と夫婦の取り決め確認)
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IF設定。
はるは悩んでいた。あの喜助が、珍しくはるに頼みごとをしてきたからである。折角だから、こんなことは滅多にないから。はるはとても悩んでいた。どうしよう……。糊のきいたシャツを手にとって、久しぶりに話の出来た昨日を思い出す。うーむ……。燕尾服を前にして、はるはしゃがみこんだ。
例えばこんな夏休み <喜助ver.>
「悪いんだが、おはるちゃんに俺と一緒に華月ホテルの晩餐会に出てもらいたい。なぁに、難しいことはしなくていい。踊らなくったっていいし、俺の近く……はちょっと困るが、何かつまんでてもらっていい。ただ、宮ノ杜ってのはちょっと自覚していいドレスを着て振る舞いに気を付けにゃあならんけどな」
振る舞いに気を付けることは難しいことではないのだろうか。はるははあ、と気の抜けたような返事をして喜助を見た。
喜助の分も衣装が届くと知っていたので、何を着るんだろうと思った。出来心だった。てっきり給仕にでも化けると思っていた。だったら私も給仕の格好でいい、ドレスよりは。そう思っていたのに、こっそり開けてみた衣装は燕尾服。
「き、喜助さんも燕尾服?」
「ん?なんかおかしかったか?」
何時の間に背後に立ったのか、喜助ははるの後ろで衣装の箱を覗き込んでいた。これなら問題ねえや、よし。とも言っている。喜助の燕尾服姿が全く想像できないはるは、腰が抜けてへたり込んだ。現在夕刻。もう準備しなければならない。髪を結う必要もあるし、化粧も。とりあえず立たなきゃ、とは思うが足は動いてくれない。
「おはるちゃん、準備しないのかい?まあ、仕組みはわかってるから脱がせてやってもいいけどな」
「け、結構です!」
はるがばっと顔をあげれば、これまた何時の間に着替え出したのか、喜助は白いシャツに上だけ着替えてしまっていた。いつもの格好だって似たようなものだというのに、なんでこんなに緊張するんだろう、とはるは考える。わかった、帽子である。髪を固めて少しだけ垂らされた前髪が、いつもと違う雰囲気でなんとなく精悍さを引き立たせる。ポカンとして自分を見つめるはるに、さすがに喜助もからかっている場合ではないかもしれないと思った。
「大丈夫か?なんなら俺一人で何とかするけど」
「や、行きましょう、一緒に行きます」
「そうかい」
一緒に、の部分に喜助は笑った。
「行ってまいりますね」
「様子見たら帰ってきますんで」
自動車に乗り込む前に彼らを見た人間は思うだろう、化けた、と。
「そういえば、喜助さんそのしゃべり方だとわかっちゃいますね」
「向こう着いたらこんなしゃべり方はしねえから大丈夫」
使い分けができるのか。喜助さんって器用ですね、そう続けようとしてはるはその言葉を呑んだ。それはつまり、いいとこの男性だと思った女性が寄ってくる可能性を考えたのである。女性の扱いを勇様に教えたとかいう話を最近小耳にはさんでいたはるは、冷や汗が出てきた。
「あ、あの!」
「?どうしたんで?」
「その口調のままお仕事できませんか」
「無茶言っちゃいけねえ、それは聞けない願いだ」
「でも!」
喜助がいつもと違う口調でとっておきの一言をはるに言うということで収まる迄、口調を直す直さないは車の中で延々と口論となった。
ホテルに着くと、はるにとっては見知った顔ばかりがいる。兄弟と各兄弟の母、使用人(給仕の格好だが)と三治。たえがいるので聞けば、これから着替えてドレスになるという。今日はそういう日なんだそうだ。どうしてはるは知らなかったか。たえが知らせていないから。そして、別に知らなくても喜助が何とかすると思っていたからである。喜助自身、もう驚かせることにして説明は省いた。
よたよたしながらも、はるは喜助のとるステップについて行こうと時折こっち?と聞きながら緩やかに足を出す。喜助はともすれば転びそうなはるを支えつつ、踏まれないように足をよけながら踊る。
「そういえば、とっておきの一言って何ですか?」
「ん?そうだなー、ここで言うのはちとまずい。また今度な」
「え、酷いです!」
「女だっていないんだから、俺が口調変えたって大丈夫ってわかったろ?それでもって言うんならダンス、よたつかないで踊れるようになってからってな」
それは当分先になりそうである。
(喜助に基本休みはない。でもはるをからかい、癒されているような気もしないではない)
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